~カメラマン「林建次」という物語~
4月29日のメンタルヘルス講座。講師にはカメラマンの林建次さんを迎えての11回目の講座です。
とてもすすばらしい会となりました。
ニバルレキレのメンタルヘルス講座で大切にしていること。
それは、心のケアのための知識やスキルを身につけることではありません。
私たちが大切にしていること。
それは「感じること」です。
人は何かを人生の中のある瞬間に背負います。
あるいは喪失します。
そのような苛烈な体験は、誰かと自分とを比較するような類のものではありません。
でもときに人は、誰かの立っている場所が、耀くまぶしく見えてしまうものです。
その場所に自分も立ちたいと。
その場所になぜ自分はいないのだろう、と。
それでも、人は語り合う中で、出逢った人の真の物語を知ることができます。
迷いあがき、慟哭の想いを心の中に誰もがしまっていることを。
「わかる」というのはおこがましい。
でも、何かを自分に照らし合わせながら、想像し、
他者の人生についての物語を紡ぐ力が人には備わっています。
そのような他者と自分とを重ね合わせ、命について織りなす作業の中で、
人は自分の傷をゆっくりと癒すことができるのではないかと、私たちは考えています。
前回のボクサー大嶋記胤さんに続き、ドキュメンタリー写真を撮り続けているカメラマン林さんのお話は、
ずしんと力強くも優しく、心の中に何かを残してくれるものでした。
林さんは23歳のときのバイク事故で右腕の機能を喪失。
その後の壮絶なリハビリの中で、左手でカメラを持ち、口でシャッターを切るという手法でカメラマンとして復帰。
夢を追い続けるボクサーたちと並走する日々が始まりました。
それからの12年の集大成が『生きるために人は夢を見る。』(林建次:写真・A-Works出版)です。
会場にはその本や、その他の林さんの写真に心震える体験をした方がたくさん参加されていました。
そして誰かのライフヒストリーを聴くという貴重な体験を求めて参加されている方も。
林さんというと、ボクサーの写真を連想する方が多いでしょう。
でもよく見ると、林さんの写真に写っているのは、ボクサーという彼らの孤高な姿を通り越しての、
人間としてのその人すべて。
その人を取り巻く家族や友人たちの愛情。
そういった人間関係の中にこそ存在するひたむきな祈りや夢、危ういまでの情熱、力強い優しさ。
様々な被写体の生きてきた月日が輝いているのが林さんの写真では見つかります。
その後も、林さんは様々なアーティストや職人、それから家族写真を撮り続けています。
今回の林さんとの打ち合わせや当日のお話の中で印象的だったのは、
林さんの被写体との向き合い方の話に加え、
本を出せば何かが変ると思っていたけれど、何も変わっていなかった、という言葉でした。
人が変るのは、そういう行為ではないのだ、と。
そして、陽の下にある林建次を人は見るかもしれないけれど、
実際の自分はどこまでもあがいていた、ということ。
そういった年月の中、その後も本の出版を含めてカメラマンとしての仕事をする中で、
こだわり続けてきたドキュメンタリーとは。
写真には詳しくない私ですが、あるアーティストの言葉を思い出しました。
「体全体が手となって、体全体が目となって、そうすれば命の手が差し伸べられやすい。
ひょっとして命が目の中に入ってくるかもわからない。
目の中に命が入ってきて、目という広大さの中であなたを導いてくれるかもしれない。」
その目の先に、手の先に林さんの写真があるのかもしれないと、思いました。
林さんは他者の生きる姿について「ドキュメンタリーだ」と常に語りますが、
会場にいた私たちには、林さんの生き様こそドキュメンタリーと感じられる時間でした。
これからの自分がやっとスタートラインに立つ。
そういう林さんの顔は、数年前にお会いしたとき以上に優しくなっていました。
会の途中からは輪になってのフリートーク。
前回のゲストスピーカー大嶋記胤さんの、写真による軌跡を一緒に追いつつ、
本に掲載された多くの写真のオリジナルを見せてくれました。
いとおしそうに、その写真1枚1枚に触れていく、参加者の皆さんの手元のやさしさ。
なんとも優しい時間が流れていたと思います。
距離感についても話題にあがりました。
被写体にのめりこんでいくのが林さん。
カメラマンである林さんは最大限に相手に近づいた瞬間にシャッターを切ります。
「シャッター音は相手にとっての凶器。それがあるのが当たり前の至近距離での関係になるまで
隣に寄り添い続ける。撮られる中で、被写体の命が輝き始める。」
その言葉がとても印象に残りました。
寄り添う、という行為。
人が誰かとともに如何に生きるか、のヒントかもしれません。
なんと懇親会もほぼ全員参加。
講師の林さんと、そして参加者同士での交流をお互いに深めることができたかと思います。
林さん、皆さん本当にありがとうございました。
代表:小山えり子
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