エイズによって影響を受ける人たちのケアの中で、忘れてはいけないのは遺族の存在です。
エイズ孤児を支援する団体は数多くありますし、HIV陽性者のための自助グループやアドボカシー団体もあります。
HIV陽性者がホームベイスドケア(訪問介護)のサービスなどを受けている場合には家族もサポートを受けることができます。
しかし、膨大な数となるエイズで誰かを失った家族のケアは誰がしているのでしょうか?
喪失感と悲しみで途方にくれるのは、遺された子どもだけではありません。
大人や、孤児が引き取られた家庭にいる他の子どもたちも、エイズ死の影響を大きく受けて暮らしていかなければなりません。
遺族は精神的なダメージだけでなく、稼ぎ手を失った中での貧困という現実的な苦境にも立たされます。
エイズ教育の問題も残っています。
遺族ケアへの戦略的なサポート体制を整えている行政や草の根団体は、なかなか見つからないのが現状です。
ニバルレキレでは以下の5つのことを柱に、遺族支援を行なっています。
死は亡くなった家族と自分との、一緒に生きるはずだった時間を断ち切ってしまう。
=深い喪失と悲しみの体験。
死という大きな喪失体験は、遺された家族にとっての人生の危機。
喪失体験とは「死」だけでない。様々なものを遺族から奪う。
エイズ死は予期された場合だけでなく、突然の場合も多い。
南アのエイズ禍はコミュニティ全体への悲哀をもたらしている。
家族や仲間の喪失=コミュニティの崩壊の危機。
伝統的な価値観の中での困惑。
「疫病」としての存在。
教育の不足による誤解。
差別の問題。
自己や他者の「生命の尊重」にかかわる問題。
避けられた死であること。
=罪の意識を遺された人にもたらす。
=貧しさの問題。
=国や世界全体の責任。
死への準備をしていくこと。
生と死についての語り合いをしていくこと。
アフリカ人の文化の中での死生観を理解していくこと。
遺族の自殺防止をすること。
その他の危機介入をしていくこと。
(例えば、抑うつ状態のケア、アルコールや薬物乱用、孤児の虐待などの防止)
エイズ教育や安全教育をすること。
自尊感情の育みを支援すること。
「避けられる死」と「避けられない死」を理解していくこと。
癒しの過程に寄り添うこと。
別れは自分の一部も喪失する体験であることの理解。
それでも生きていかなければいけないこと自分の価値を再び見つけていくこと。
「死なせてしまった」という罪の意識から解放されること。
死んでしまった家族や残って生きている自分を赦(ゆる)していくこと。
苦しみに意義を見つけていくこと。
生きがいや自分の役割を見つけていくこと。
希望を感じること。
死者との新しい物語や語り合いが始まること。
苦しみや悲しみに寄り添い生きていけること。
かかわっていたHIV陽性者が不幸にもエイズによってなくなった場合に、葬儀という親族や親しい人間が集まる場に列席したりしながら残された家族たちの置かれている状況を確認し、その後家族に応じた必要な頻度で遺族訪問・心理ケアを続けていきます。
写真は葬儀の会場となる庭にテントがはられ、参列者への埋葬後のランチの用意をしている様子です。
祖先を大切にする南アフリカでは、お墓は亡くなった家族とつながり続けるためのとても大切な場所です。
エイズ死のショックから、お墓参りに自分たちだけでは行きたくても行けないという家族もたくさんいます。
ときに、お墓参りに同行したりながら年月をかけて遺族が愛する人の死と向き合う過程に寄り添います。
家族全体にかかわることを心がけています。
家族の中で主にケアしていく対象がつねにエイズ孤児とは限りません。家族の中での叔母さんであったり、従妹である場合もあります。
その家族の中でエイズ死による家庭の変化の影響を一番受けて日常生活に支障をきたしている人を中心にケアしながら、家族全員とつきあっていきます。
例えば写真の彼は生きる道を常に教えてくれた2人の兄を失ってしまい、様々な社会生活からドロップアウトし喪失のショックから何年も抜けられずにいます。
専門的なカウンセリングを継続しています。
就業への支援としては仕事探しの方法を一緒に考え、そして行動し、見つけた洗車や廃品回収の仕事が継続できるよう、職場の上司とニバルレキレで連絡をとりあい、彼の仕事へのモチベーション(やる気)の維持を図っています。
学業を早くにドロップアウトしているため、様々な情報は彼自身の言語(スツ語)で探すようにしています。
喪失体験を家族が乗り越える過程に寄り添いながら経済的に家族が自立を図れるよう、就労のチャンスを一緒に探したり、ときには小ビジネスを行なう支援を行います。
南アフリカでは、写真のような雑貨を小売りする行商の仕事も多いですが、これを継続するためには一定のビジネスや経理の知識が必要でうまくいく人ばかりではありません。
家庭内での子どもたちが「安心して子どもらしくふるまえる権利」を守っていきます。
不登校になる子どもや落第してしまう子どものケアを、学校の先生と連携して行なっていきます。
エイズ孤児も他の家庭内の子どもも同様にケアします。
家族のエイズ死によって家族機能が従来と変わってしまうばかりでなく、従来から潜んでいた家族問題が噴出する場合もあります。
一人一人が現実に適応していけるよう、専門的な家族ソーシャルワークやカウンセリングを行ないます。