すべての人がエイズとともに生きている。
すべての人が何かしらの生きづらさを
抱えている。
エイズとともに生きる人たちとは?
つまり、HIV/エイズはあらゆる人が影響を受ける可能性のあるテーマなのです。
南アフリカ共和国ではすべての人が、なんらかの形でエイズの影響を受けて生きています。
特にアフリカ人の暮らす、タウンシップ(アパルトヘイト時代の黒人居住地区)やスクウォッターキャンプ(不法居住地区・スラム)では、エイズだけでなく結核、そして貧困・失業や犯罪、アルコールや薬物など、あらゆる問題の存在する中で、多くの命が今日という日を懸命に生きています。
エイズという問題だけでなく、私たちは出会った人にとっての「生きづらさ」を一緒に考えていくようにしています。
人は誰かとのかかわりの中で生きている。
だから全体とかかわる。
ニバルレキレの活動で大切にしている視点、それは「全体とかかわる」ということです。
私たちは支援する対象をあえて特化しません。出会ったHIV陽性者やエイズ孤児・遺族など、出会いの出発点にある人を大切にしながら、 彼らとその家族、彼らが暮らすコミュニティで関係性をもつ相手「全体」と、深く長くかかわっていきます。
そして、
これらの生きる力を 「底上げしていく」 ことを目標に活動しています。
(少し専門的なお話になりますが、ニバルレキレでは、ソーシャルワークの技法をもちいて、個別のケースワーク、家族ソーシャルワーク、コミュニティワークをおこなっています。)
エンパワメントとは一人一人の生きる力が強まること。
自尊感情とは自分を大切にできる心のこと。
エンパワメントとは具体的にはどんなことでしょうか?
HIV陽性者だったら・・・
エイズ孤児だったら・・・
HIV陽性者の家族やエイズ遺族だったら・・・
他にもいろいろなことが考えられます。どの場合にも大切なのは、孤立せずに誰かのサポートを気楽に受けることのできる力 (相談する力) や、自分に必要な情報 (支援してくれる人や場所) を見つける力になります。子どもの場合は、それを手伝う大人の助けも必要となります。
生きる力が高まると、人は自分自身をより大切にできるようになっていきます。
自分を大切にすることは、心のケアの第一歩。
そして自分を大切にしようという気持ちは、HIVに感染しないための行動を選択することにもつながっていくのです。
家族の中でこぼれ落ちてしまう人と
手をつなぐ。
実は、エイズの影響を受ける人たちの中で、こぼれていきがちなのが、例えば家族半分をエイズで失った、子どもを含めた「遺族」です。
南アではエイズ孤児の多くは、おばあちゃんや叔母さんののところなど、親戚(拡大家族)に引き取られます。拡大家族の彼ら全員が「エイズの影響を受けている当事者本人」です。
親を失った子どもの悲しみは何よりも大きい。だからこそ、そのエイズ孤児を守っていくためにも、他の家族全員と向き合っていく必要があります。
HIV陽性者とともに暮らしている家族にも同じことが言えます。
ニバルレキレが力を入れてケアしているのは、その中でもあまり「いい子」でない若者たちです。
拡大家族の中には必ずといっていいほど、ドロップアウトしてしまった10代後半~20代の「できの良くない」若者たちがいます。
それがエイズ孤児本人であったり、他の家族であったりします。
例えば、アルコールや薬物、非行などの問題を彼らが抱えていることは多いのです。
ニバルレキレでは、どこからもケアされない家族に目を向けることを大切にしています。そしてその家族の中から、さらにこぼれ落ちてしまう人に、しっかりと寄り添い支援していくことを大切にしています。
その土地にあるものを活用していく。
自己決定というライフスキル。
ニバルレキレでは、活動地域や周辺の、既存の社会資源 (支援団体や相談先、医療機関、行政のサービス、地域で力になってくれる人など) をくまなくリサーチして、それらに必要な人をつなげます。
ニバルレキレが社会資源になるのではなく、南アに既にあるものを見つけて使えるようになる力を、本人が身につけることを手伝うことを大切にしています。
本人が自分で動き、まずは情報にアクセスする行動がとれるようになること。
そして直接社会資源にコンタクトをとり、その中から、何を自分が利用するか自己決定していく、という 「ライフスキル(生きていくために必要な力)」を培うことを手伝います。
つまり
このような、一人一人のエンパワメントが自尊感情の育みには欠かせないのです。
コミュニティの住民による活動を
誕生させる。
社会資源のない地域では、地域住民の手による自発的な活動が生まれるよう働きかけていきます。そして生まれた活動が維持できるように支えていきます。
そうして生まれた活動の一つが、セチャバセンターです。一人のエイズ孤児との出会いから、地域のさまざまな人がボランティアとして参加するエイズ孤児のためのデイケアセンターが生まれました。
私たち誰もが
社会資源になれる。
マンパワーも1つの社会資源です。
私たちは常に、ネットワーキングの機会をつくるようにしています。
生きるモチベーション、活動するモチベーションなどを高めるために、そのとき支援している人や地域の外から、誰かを連れて来たり、他の地域に連れていったりして、交流の場をつくっています。
さまざまな理由から、自分の住む地域、ときには数本の通りの中だけという狭い世界で生きている人も多いので、 エンパワメントされたHIV陽性者やHIV活動家(エイズ問題にとりくむ当事者たち)との交流に刺激を受ける人がたくさんいます。
回復して健康になったHIV陽性者や、悲しみを克服したエイズ遺族も、コミュニティで自分が支えられたときのように誰かを支えるように次第になっていきます。
例えば、ニバルレキレが活動している地域のひとつ、カテェホンというタウンシップでは、支援してきたHIV陽性者や遺族が、私たちの訪問・相談活動をサポートしてくれています。
このような当事者同士の支え合いはピアサポートと呼ばれています。